小説-自宅近くの公園

　私はなぜ自宅近くの公園に来ているんだ？　当たり前だよな、答が見付からない状態で妻のいる家には帰れない。「なぜ仕事が休みなのか」そんな質問を妻はするだろう。私はその質問に対する答を言う必要が有る。だが答などない。

　それよりも問題は、私の身辺で何が起きているのか、という点だ。既に自宅にも警察が行っているかも知れないのだ。

　いやもっと大事な事は「何かの事件が起きていて、その容疑者として私は扱われようとしている」という点だ。たぶん十万円をネコババした事が原因だろうが、山岡の口ぶり、顔色から想像すると、それだけではないような雰囲気が有った。

　公園のゴミ箱に新聞紙が投げ込まれている。なんか変だ、不自然にゴミ箱が置かれているような気もする。いや、いまの私は不安定な心理状態なんだろう。ゴミ箱に新聞が投げ込まれていても不思議ではないし。公園にゴミ箱が有っても問題がある訳ではない。

　殺人事件？　新聞の見出しに書いてある。また殺人事件が起きたのか。鋭利な刃物で身体中を滅多突き、とも書いてある。物騒な世の中になったものだ、まるで人が殺されるのが日常的な出来事のように報道されている。

　広島？　広島って私が住んでいる街だ。広島で人が殺されたのか……いったいどのあたりで人が殺されたんだろう……うん？！　この住所はあの公園の近くだ。いつの事件だろう、新聞の日付は昨日になっている。ということは一昨日の夜に起こった事件になる。

　凶器は鋭利な刃物って……包丁だ、包丁だろう、私はあの公園で血糊の付いた包丁を見かけた。……不審な車が二台ほど停まっていたって書いてある。たぶんそれは、私と山岡の車を指しているのだろう。確かにあの時間帯、山岡と二人で自動販売機の前にタクシーを停めていた。

　被害者が持っていた現金を強奪した可能性が高い、とも書いてある。そうか、この事件の犯人に私は間違われているに違いない。私はたまたま拾った財布の中身、十万円を「競馬で稼いだ」とみんなに言い、派手に使った。もっているはずの無い現金を持っていると犯人に疑われても、しかたないよな。

　だが、私が犯人でない事は事情を話せば分ってくれるだろう。あの十万円は拾ったお金だったと。だけど、どうやって説明する？　拾った現金は勝手に使いました、と説明すれば自分の首を絞めたと同然だ。次のページに続く